住んでいる場所。性別。整っていない制度。
それらを理由に、続けたい人が続けられなくなる。
そういうことが、少しずつでも減っていく未来をつくりたいと考えています。
田中陽子が20年以上のキャリアで実際に立ってきた場所を並べると、女子スポーツの現在地が見えてきます。
地元・山口にいたままでは競技を続けられず、家族と離れて福島へ移りました。男子であれば各地に選択肢がありました。
1部リーグでプレーしながら、所属クラブで給与の未払いと契約トラブルが起きました。
女子サッカーにプロリーグは存在せず、企業スポーツとして運営されています。設備は整うが観客は少ない。
チームメイトの多くはフルタイムで働きながらプレーしています。仕事の都合で練習に来られない選手もいます。
4つの環境に共通しているのは、competitor としての力とは無関係なところで、続けることが難しくなるという構造です。そしてこれは過去の話ではなく、いま起きていることです。
女子スポーツの環境は、競技力とは関係のないところで「続けること」を難しくしています。制度が変わるのを待つのではなく、選手個人の単位で成立する形を積み上げていく。ひとつの実例ができれば、それが次の誰かの道になります。
田中陽子は12歳で山口を離れ、25歳でスペインへ渡りました。地方にいるから無理だ、とは思ってほしくない。世界を見てきた選手が地元のグラウンドに立ち、同じピッチでボールを蹴る。そこから「自分にもできるかもしれない」が生まれます。
うまくいかないとき、原因を環境や他人に求めるのは簡単です。彼女はそうしませんでした。「この状況は自分の実力が導いた結果だ」と引き受け、その場で自分にできることを探す。矢印を自分に向け続ける。これは才能ではなく、選択です。
自分に矢印を向けられる人は、支えてくれている人が見えるようになります。送り迎えをしてくれる家族、一緒に走る仲間、指導してくれるコーチ、応援してくれる人。感謝は教わって身につくものではなく、そこに気づいたときに自然と生まれるものだと思っています。
この4つは、別々のものではありません。自分に矢印を向けられる人が、感謝できる人になる。感謝できる人が、環境を前に進める側に回る。そしてその姿を見た子どもが、次に飛び出していく。ひとつながりの話です。
寄付や支援を集める仕組みではありません。選手が持っているものを、価値として回していく仕組みです。
対談、講演、サッカー教室。選手が歩んできたことを、必要としている人に届ける。
届いた価値に、正当な対価が支払われる。競技以外の収入源が、現役のうちにできる。
生活の不安が減れば、競技に集中できる。挑戦がより豊かに、持続的になる。
実例がひとつできれば、続く選手の道になる。そしてまた1に戻る。
この循環がひとつでも回れば、それは女子スポーツの環境に対するささやかな回答になります。制度が変わるのを待つのではなく、選手個人の単位で成立する形をつくる。それがこの取り組みのやり方です。
大きなことを一度にやろうとは考えていません。順番に積み上げます。
田中陽子の経験を、対談・講演・サッカー教室という形で届けています。ここで実際に人が集まるのか、何が響くのかを確かめる段階です。
そして2026年、イ ジョンウンが仲間として加わりました。日本から韓国へ渡った選手と、韓国から日本へ渡ってきた選手。二人が並ぶことで、届く範囲が広がります。
想いに共感してくれる選手と一緒に歩んでいきます。競技も、現役か引退かも問いません。何人かで並べば、一人では届かなかった場所に届くようになります。
同時に、山口の子どもたちへの出張サッカー教室を継続的なものにしていきます。単発で終わらせず、地域に根づいた活動にすることが目標です。
いまは一人ひとりに合わせて手作りしています。これを、他の選手がそのまま使える形にしていきたい。経験を届ける場のつくり方、価格の決め方、企業や学校との関わり方。
誰かが最初にやらないと、後に続く人は道を探すところから始めなければなりません。その最初の一例になることが、この取り組みのいちばん大きな目的です。
この景色は、一人ではつくれません。
限られた環境のなかで夢を持ち、目標に向かっている方。競技も、現役か引退かも問いません。まだ形になっていない構想でも、お話しさせてください。
子どもたちに何かを持ち帰ってほしいと考えている方。技術だけでない部分を、一緒に手渡せたらと思っています。
女性の挑戦、地域貢献、スポーツ支援。どの文脈からでも関わっていただけます。研修としても、パートナーシップとしても。
対談に参加していただくこと自体が、この循環をひとつ回すことになります。特別なことは必要ありません。
女子スポーツの環境は、まだ整っているとは言えません。
だからこそ、整うのを待たずに動きます。
田中陽子が20年以上やってきたのは、まさにそれでした。環境を理由にせず、その場で自分にできることを探し、淡々と続ける。この取り組みも、同じやり方で進めていきます。一足飛びにはいきませんが、一歩ずつなら必ず進みます。